iemiru コラム vol.263
健康で楽しい老後を過ごすためには、病気を「予防する」住宅が必要だった
健康のためには食生活だけではなく住環境も重要
日本人の平均寿命は伸び続け、「人生100年時代」と言われるようになりました。 一方「日常生活に制限のない期間」いわゆる「健康寿命」は男性で72.14歳、女性で74.79歳となっています(2016年度・2018年3月厚生労働省「健康寿命の延伸・健康格差の縮小より)。 つまり最大25年ほどは「健康に心配のある状態」で生活しなければならないわけです。 そこで多くの方が、この健康寿命をできるだけ伸ばせるように一生懸命になります。 ところが健康のために食生活を改善したり、健康サプリメントを購入したりするという話はよく耳にしますが、「健康のために住環境を考える」という方は、ほとんどいないのではないでしょうか。実は健康で長生きをするためには、食生活と同等かそれ以上に住環境が大切なのです。 そこで今回は、 ・病気を予防する家作り ・住環境が引き起こす怖い病気 ・健康に暮らせる家作りのポイント などについて詳しくご紹介します。 家の新築を考えている方はもちろん、リフォームにも役立つ内容です。 ぜひ最後までお付き合いください。
バリアフリー化する前に、予防する家作り
老後を考えた家作りというと、段差をなくしたり手すりを設けたりする、いわゆる「バリアフリー化」をイメージする方がほとんどだと思います。 しかし、これらは健康に問題が生じてからそれに対応するための方法であって、「老後を健康に楽しく暮らす」ための家作りではありません。 皆さんが望む健康で楽しい老後を過ごす家とは、病気や介護状態を「予防する家」なのです。 では住環境が引き起こす病気やケガといった健康問題にはどのようなものがあり、その原因、対策はどうなっているのでしょうか。順番に解説していきます。
住環境が引き起こす怖い病気
ヒートショック
住環境が原因で一番危険なのが、脳出血や脳梗塞、心筋梗塞などの原因となる「ヒートショック」です。 ヒートショックとは、気温によって急激に血圧が上下することによって起こる健康被害のこと。 血圧は冷たい水に触れただけで数値が20以上も上がってしまう事があると言われます。ところが、冬の浴室やトイレではそれ以上の温度変化が身体を襲います。 特に浴室では、「暖かいリビングなどから寒い脱衣所へ→脱衣することによる血圧の上昇→浴室の冷たい床に触れ更に上昇→入浴によって急激に血圧が降下→入浴後また寒い脱衣所へ」、というように、ジェットスターのごとく目まぐるしく血圧が乱高下します。 すると心臓や血管、脳に負担がかかり、脳出血や脳梗塞、心筋梗塞などにつながってしまうのです。 実際、冬場の入浴時にヒートショックが原因で亡くなる方は年間17,000人以上いるのです!脳梗塞や心筋梗塞などが原因で介護状態になってしまう人は更に何倍にもなります(東京都老人総合研究所調べ)。 「病気を予防」する家作りでは、この寒暖差は必ず解消したいポイントとなります。
熱中症
地球温暖化の影響か、毎年のように酷暑を繰り返す日本の夏。その暑さを原因とする熱中症の発症、死亡事故などが後を絶ちません。 日中炎天下での活動を控えたり、こまめに水分やミネラル分を補給するなどの対策が常識となっていますが、意外と盲点なのが「屋内での熱中症」です。「家の中だから」とついつい油断してしまいがちですが、実際多くの高齢者が熱中症で亡くなっています。原因は適切にエアコンを使用していないことなどもあるのですが、そもそも家自体が熱を貯めやすく、逃がしにくい構造になっている場合も多いのです。 このような場合は、断熱と家の気密性、空気の流れを考え直す必要があります。
シックハウス症候群
シックハウス症候群とは住環境が原因で引き起こされる健康被害の総称です。 目がチカチカする、喉が痛くなる、疲れやすくなる、といった症状の他、頭痛やめまい、湿疹やアトピー性皮膚炎を発症する人もいます。 原因は、 ・家の材料に有害な化学物質が含まれていたり、湿気が原因でカビ・ダニが発生しやすい ・気密性が高い(断熱のために空気の出入りを制限している)にもかかわらず、換気能力が低いた め有害物質が外に排出されない という点が考えられます。 「花粉症がひどくて頭が重い」と悩んでいる人も、実はこのシックハウス症候群が原因という場合も多いのです。
ポイントは断熱・空調・調湿と建材選び
熱中症、ヒートショック、シックハウス症候群など、家を原因とする病気を予防するポイントは、以下の5つです。 ①断熱をしっかりして熱気、冷気を室内に入れない ②空調をしっかりして温度差を作らない ③充分な換気をして空気の流れを作る ④湿気が室内に入ってこないように遮断する ⑤有害な化学物質を含む建材を使わない つまり、「室温のバリアフリー化」がポイントとなるのです。
室温のバリアフリー化
通常のバリアフリー化では室内の段差などを解消しますが、病気を予防する家作りでは寒暖差を解消する「室温のバリアフリー化」を目指します。
断熱性を高める
断熱性を高める工法には、「内断熱工法」と、「外断熱工法」があります。 一般的に広く用いられているのは内断熱工法で、建材と建材の間にグラスウールなどの断熱材を詰めて断熱します。 施工が簡単で、コストが安くなるというメリットがある反面、屋根や壁といった外側の部分は断熱されていないため、熱気や冷気に包まれる形となり、結果的に夏は熱く、冬は寒くなりやすいといったデメリットがあります。 また建材と断熱材の隙間に結露を起こしやすいという問題もあります。 一方、外断熱工法は家の一番外側を断熱材で覆って断熱します。 魔法瓶などのポットの中に住むことをイメージしていただければ分かりやすいと思います。 断熱材のカプセルの中に住む感じになるため、外からの熱気や冷気は侵入しません。また、エアコンで調節した室内の暖気や冷気は外へ逃げません。 そのため、一年を通して室内の気温の変化が少なく、夏涼しく、冬暖かい家を実現できます。 洞窟やワインなどの保管に使われる天然の地下セラーの温度が安定しているのと同じ仕組みです。 内断熱工法よりもコストはかかりますが、予防する家作りにはこの外断熱工法がおすすめです。
気密性を高める
いくら断熱性を高めても、穴や隙間が開いていて、そこから暖気や冷気が出てしまっては室温を一定に保つことはできません。 そこでできるだけ気密性を高め、熱の出入りをシャットアウトします。 すると上記した外断熱工法と相まって、リビングから寝室、廊下もトイレも浴室も、家全体を均一に温めたり冷やしたりすることができるのです。そして、一度温めたり冷やしたりした室内は、魔法瓶のように温度が保たれるため、結果的に光熱費の節約につながります。
ベーパーバリア
「ベーパー」とは湿気、「バリア」とは防ぐことを意味します。 つまり湿気の侵入を防ぐバリアを作る工法のことです。 内断熱工法に使用されるグラスウールなどの断熱材は湿気に弱く、湿ってしまうと断熱効果が落ちて、ダニなどの発生源にもなってしまいます。 そこで湿気を通さないフィルムを断熱材の上からかぶせるのですが、どうしても隙間ができてしまい、完璧なベーパーバリアを作ることができません。 その点外断熱工法の場合は、熱や湿気を通さない素材で家の周りをスッポリと覆ってしまう工法なので、断熱と同時に湿気対策までできてしまうのです。この点から、外断熱工法をおすすめします。
換気、空調
室温のバリアフリー化に役立つ外断熱工法と高い気密性ですが、その性質上問題も生じます。 空気の循環が起こらないため、室内で発生した湿気がうちにこもってしまい、壁などに結露してしまうのです。 結露はカビやダニなどの発生原因になりますし、ハウスダストなども外に出ることがありません。 そこで重要になってくるのが「換気」と「空調」です。 家全体の空気の通り道を設計し、空気の入口と出口をしっかりと管理することで、暖気や冷気は漏らさず、湿気やカビの胞子、ハウスダストだけを排出します。 その上で、その空気の通り道を利用し空調の暖気や冷気を循環させ、家全体を均一に暖めたり、冷やしたりします。 このような全館換気、全館空調システムが室温のバリアフリー化を実現してくれます。
シックハウス症候群を防ぐ
ベーパーバリアと換気システムでカビ・ダニを発生させない
シックハウス症候群の原因の一つは室内のカビやダニといったハウスダストです。 そこで完璧なベーパーバリアをほどこして湿気の侵入をシャットアウトし、カビやダニの発生を抑えます。 また全館空調システムでカビの胞子やダニの死骸、ハウスダストなどを屋外に排出し、アレルギーの原因となる有害物質を除去するのです。 このように室温のバリアフリー化はシックハウス症候群予防にも役立ちます。
ホルムアルデヒドなどを持ち込まない
シックハウス症候群のもう一つの原因は、合板・集成材などに使われている接着剤やビニールクロス素材に含まれる「ホルムアルデヒド」という化学物質です。 ホルムアルデヒドは粘膜を刺激し、目がチカチカしたり、鼻水や喉の痛み、咳が止まらないなど、花粉症のような症状を引き起こします。 対策としては、合板などではなく、杉やひのきの無垢材を使用すること。 また内装もビニールクロスを利用せず、和紙、珪藻土、板張りなどにする事が挙げられます。
費用はかかるが、実はトータルコストは安く済む
病気を予防する家作りで対策としてあげてきた外断熱工法や気密性を上げる工法、無垢材を始めとする天然素材は、コスト削減のために広く採用されている内断熱工法、合板材、集成材に比べ建築費用が高くなります。 30坪の家が1,000万円以下で建つ一般的な工法に比べ、1.5倍~2倍以上の費用を見ておかなくてはなりません。 しかし病気や介護状態になることを防ぐことができれば、医療費や介護費用がかかりませんし、外断熱工法は光熱費の削減にも役立ちます。 そして、一生自分の家で「健康に楽しく暮らせる」という安心感こそ何ものにも代えがたいメリットです。 デザイン性に優れ、最先端の設備を備えた住宅も魅力的ですが、ぜひ健康面を考慮し、病気や介護を予防する家作りも考えてみてください。
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